「経皮毒」が怖い人にささげるコラム ③「経皮毒の部位別吸収率」という妄想の出所についての話。

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2023年6月15日 木曜日

「経皮毒」が怖い人にささげるコラム ③「経皮毒の部位別吸収率」という妄想の出所についての話。

こんにちは。
子供たちのアレルギーが食事で治りました!
いまも三人育児に奮闘中の佐々木愛です。

 


(日東書院本社 (2005/2/1)竹内 久米司、稲津 教久)
 

 
この本のおかしさと、この本に振り回される弊害について、続けます。
 
今日はまず、この図をご覧ください。
巷に多く出回る、「経皮毒の部位別吸収率」の図解です。
↓↓↓

(https://suzujuku.com/blog/581/より転載)
 
腕の内側を1とすると、陰部は42倍も、毒が吸収されるのだそう。
「経皮毒」派は、このデータをもとに、身に着けるものや、肌につけて使うものの危険について言うわけです。
 
では、このデータの出所はどこなのか?
今回『経皮毒』を一読したら、それがわかったのと、ついでにこの本のさらなるトンデモっぷりが分かったので、解説いたします。
 
「経皮毒の部位別吸収率」↑の出所は、『経皮毒』58ページの、こちらの表と思われます。さっきの表と、各部位の数値がぴったり一致していますね。
 

 
・・・では、そもそもこの表の元となるデータは?
引用元が書いていないことがすでに非常識ですが、コラムを読むと「ハイドロコーチゾンという物質」についてのデータだとわかります。
 
・・・ああ、道理で、どこかで見たことがあると思った!
 

Regional variation in percutaneous penetration of 14C cortisol in man R J Feldmann, H I Man(Feldmann RJ, Maibach HI.J Invest Dermatol. 1967 Feb;48(2):181-3. )
これがおおもとのデータです。一部抜粋して転載しました。
論文は英語ですが、興味がある方はググって読んでみてください。
さっきの表と、各部位の数値がぴったり一致しているでしょ。
 
これはいったい何のデータかって?
ステロイドの一種、ハイドロコーチゾンの部位別吸収率のデータです。
 
60年代に、アメリカの皮膚科医フェルドマン先生が、被験者の各部位にステロイドを塗ってから、排泄される尿を調べ、経皮吸収された薬効成分の量を割り出したもの。
このデータにより、医師は各部位の吸収率に合わせて、処方するステロイドのレベルを調節できるようになりました。
 
50年以上前のデータですが、いまでもアトピー性皮膚炎のガイドラインにも載っている、現役の超有名なデータです。
 
つまりここで示されているのは「化学物質の毒性の吸収率」ではないです。
「ステロイドの吸収率(効き目)」です。
 
さて、この表は、たいてい、視覚的にわかりやすい図に改変されて使われます。
その際は、誰もが、データに関わる者の常識として、以下のことを守ります。
 
①研究論文の主旨にそぐう場面(ステロイド使用にまつわる場面)で、
②何の表なのか、明確な説明を加えて、
③元データを明記して
使う
 
↓↓↓
たとえば、
(『アトピー性皮膚炎治療のための ステロイド外用薬パーフェクトブック』塩原哲夫(編集) 南山堂  2015/12/2 より転載)
①医師のためのステロイドの説明書で使用

 

 
たとえば、
(『アレルギー』日本アレルギー学会 vol.58(5)2009 より転載)
①アレルギー専門医のためのステロイド外用薬を使い方を説明する章で使用

 
たとえば、
(シオノギ製薬のウェブサイト「ヒフシルワカル」より転載)
①患者にステロイドによるセルフケアについての解説ページで使用

 
で、これを全部破っているのがこちら。
↓↓↓
(『経皮毒』竹内 久米司、稲津 教久 日東書院本社 (2005/2/1))
①「日用品が毒になる」という主旨の本の、第二章『皮膚から吸収される経皮毒物質』内で使用

 
①ステロイドとは全く関係のない場面で
②ステロイドという言葉を用いず
③元データを示さず
使っているわけです。
 
このページを見ただけでは、読者はこれが「医療現場で使われている、ある薬剤の薬効についての表」だとはわかりませんね。
 
あたかも、人体はすべての化学物質を、つねにこの比率で吸収するかのように思わせます。
 
また、「ハイドロコーチゾンという物質」という書き方は、意図的に、ハイドロコーチゾンを「よくわからない化学物質」として印象付けようとしているように思えます。
 
これは、先人の研究論文の、不正とまで行かなくても、不適切使用と言えるでしょう。
フェルドマン先生も、遠い国で、こんなとんでもない本で自分の研究論文が使われるとは、夢にも思われなかったことでしょう。
 
これを読んで、読者は思うはずです、
「そうか、このハイドロなんとかも、他のいろんなよくわからない化学物質も、この比率で体に染み込んでいくんだな! 怖い!」
「サリンもそうだし、歯磨き粉もそうなんだ! こわい!」
「化学物質はとにかく怖い!」

 
こうして読者は、このおおもとの研究論文の趣旨とは全く別の、とんでもない場所に連れて行かれてしまうのです。
『経皮毒』著者の、妄想世界に。
 
あなたの周りに、そんな被害者はいませんか。
いたら、ぜひこのコラムを読ませて、悪夢から救ってあげてください。
 
 
●次回「④経皮毒の研究論文を探してみた話。」




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