森戸やすみ先生の母乳についての記事に異論あり!

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2017年10月13日 金曜日

森戸やすみ先生の母乳についての記事に異論あり!

↓こちらの森戸やすみ先生の母乳についての記事に異論があります!

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こちらは、小児科医、森戸やすみ先生が、9/29にBuzzFeed Japanに寄稿された記事です。
FBで何度もシェアされてきたので、ママさんたちの関心が高いのだと思います。
 

内容は、ママサイトには母乳についてのいいかげんな記事が多いから、振り回されないよう、用心しましょう、という主旨でした。
この主旨については、私も同意いたします。
 

森戸先生は、日ごろから、このようなご姿勢で情報を発信していらっしゃる小児科医として有名です。
 

しかし!

アトピーと母乳との関係については、私は先生と意見が異なります。


森戸先生の考え = 「母乳と乳児アトピーとは、無関係。」
私の考え = 「母乳と乳児アトピーとは、関係がある。」

 

このことについて、もう少し詳しく書いてみます。
 
 

■私が運営しているこのサイト(らく研)について。

まず、当サイトは、アトピー、花粉症などのアレルギーを改善するための食事療法について、解説しているサイトです。
 

当サイトが紹介している食事療法は、下関式といいます。
下関式とは、下関市立中央病院に勤務されていた小児科医、永田良隆先生(※)が、アトピー患者の入院病棟で実践されていたものです。
(※日本小児科学会、日本東洋医学会専門医。2009年3月31日まで日本アレルギー学会専門医)
 
食事療法の基本的な取り組みは、アトピー症状の原因となっている食品の一時的な完全な除去です。おもに、植物油、畜産物を除去します。
(くわしい理論については「アレルギーの原因と改善法」をお読みください。)
 
下関式は、下関市立中央病院で一万件以上のアトピー患者に対して実践され、治癒率は八割以上とされています。
 
当サイトでは、取り組みやすいよう、若干のアレンジをしています。
詳しくは拙著『アトピーが消えちゃった! マンガでわかる体質改善』にて解説しています。
 

 
なお下関式では、母乳が乳児のアトピーの原因になりえるとされています。
当サイトも、下関式の見解に従っています。
 
 

■ひっかかったところ。(≒私が完全に同意できないところ)

さて、私が引っ掛かったのは↓こちらの部分。
 

「mamanoko」というサイトには、「母乳の質が悪いと乳児湿疹がひどくなり、そのままだとアトピー性皮膚炎になる」という内容が書かれた記事もありました。
 

乳児湿疹は赤ちゃんのホルモンが原因でできるので母乳は関係ないし、アトピー性皮膚炎と見た目は紛らわしいものの、その原因ではありません。お母さんが心配するワードをみんなつなげたような記事ですが、根拠は書いてありません。

 

この部分において、森戸先生ご自身はたんに「質の悪い母乳→乳児湿疹→アトピー、とつながるわけではない」とおっしゃりたかったのかもしれません。
しかし、読み方によっては、「母乳はアトピーの原因となりえない」と読めてしまうように感じました。
 

当サイトとしては、こちらの記事を見た方が、「そうか、母乳と乳児のアトピーは無関係なのか」ととらえてしまうことを危惧します。

下関式の治療実績および、私自身、また私の周りの知人の治療実績を見れば、母乳と乳児アトピーとが関係していることは明らかです。
 
 

引用か所が前後しますが、記事では、食べたものがそのまま母乳になるわけではない、という説明のあとに、このように続きます、
 

血液は、体の恒常性を保つ働きのために食べ物でそう簡単には変わりません。厳格なベジタリアンのために長期に渡って動物性タンパク質を摂らなかった場合、母乳中のタンパク質やビタミンB12などが低下することはわかっていますが、授乳期間の数ヶ月を和食にしても母乳の栄養素は変わりません。
 

妊娠中にはお母さんが食べては良くないものがありますが(生の肉、火を通していないチーズなどはトキソプラズマなどの寄生虫やリステリア菌などに感染し、流産や胎児への障害につながる恐れがあります)、赤ちゃんを産んでから食べたら危険なものは特にありません。

 

確かに、食べたものが、直接母乳に流れ込むわけではありません。
 

しかし、

血液は、体の恒常性を保つ働きのために食べ物でそう簡単には変わりません。

とおっしゃっても、森戸先生も、授乳中のお母さんに、アルコールやカフェインをお好きにどうぞとはおっしゃらないでしょう。
許容しても、量の制限はなさるでしょう。
すると実際には、母乳には食事による多少の質的変動はある、と考えておられるのではないでしょうか。

 

厚生労働省の見解を調べてみると、コーヒーはマグカップ2杯まで、アルコールについては禁酒を勧めています。
 

厚生労働省『食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~』
厚生労働省 妊産婦のための食生活指針『たばことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう』
●厚生労働省『飲酒のガイドライン』
 
過剰なカフェイン、過剰なアルコールは、母乳に移行し、悪影響を及ぼす可能性があるわけですね。
つまり、母乳の恒常性があるとしても、「過剰摂取」に対しては、限界があるようです。
 
しかも、コーヒーを一日二杯までに制限しなければ安心できない程度の恒常性だとすれば、そう頼りになる機能だとは思えません。
ほんのわずかと思えるような摂取量でさえ母乳へと移行し、悪影響を及ぼし得るということを、厚生労働省が指導しているのです。
 

記事にはまた、こうもあります。

厳格なベジタリアンのために長期に渡って動物性タンパク質を摂らなかった場合、母乳中のタンパク質やビタミンB12などが低下することはわかっていますが、

 

つまり、ある栄養素の「長期的な」「不足」も、母乳の成分を変化させるわけですね。
 

血液は、体の恒常性を保つ働きのために食べ物でそう簡単には変わりません。

という先ほどの話と、既に矛盾していないでしょうか。
 
そして、記事はこう続きます、

授乳期間の数ヶ月を和食にしても母乳の栄養素は変わりません。

 
もう一度、全文を見てみます。

厳格なベジタリアンのために長期に渡って動物性タンパク質を摂らなかった場合、母乳中のタンパク質やビタミンB12などが低下することはわかっていますが、授乳期間の数ヶ月を和食にしても母乳の栄養素は変わりません。

 
この文は、前後で矛盾しているように思います。
そもそも、それぞれの「期間」の長さがはっきりと言及されていないことが問題です。
 
「長期」とはどのぐらいなのか。数か月なのか、数年なのか。
「数か月」とは何か月なのか。二ヶ月なのか、三か月なのか、それ以上か。
授乳は、六か月から一年、長いと数年に及ぶ場合があるが、それは「長期」ではないのか。
 
それらをはっきりさせない限り、「母乳は食事でそう簡単に変わらない」という説は、説得力に乏しいと考えます。
よって、「母乳はアトピーの原因にならない」という説(があるとして)も、論理的な説得力をもつといえないのではないでしょうか。
 
 
それから、もうひとつ気になる部分があります。
それは、お母さんの「それまでの食事傾向」についての言及なく、「和食にしても変わらない」としていることです。
 

「食べたいものを好きな時に好きなだけ食べられる」時代となった現代において、食生活は家庭ごとに全くことなると言えます。
そして、酷く偏った食事をしていても、第三者にそれを修正される機会に乏しいです。
 

たとえば、毎朝菓子パンのみを好きなだけ食べていたり、毎日角砂糖をおやつにしていたり、毎晩スーパーの揚げ物がおかずだったり。
すべて、私が出会ったアトピー患者さんのかつての食生活です。
 

「一般的な食生活なら」「常識的な献立なら」というような仮定の上でのお話しなのかもしれませんが、そのような概念は、想定される内容に個人差がありすぎるので、あまり意味がないと私は感じています。
 

和食にすることで「どの程度食事内容が変わるか」は、それまでの食事内容により、千差万別であるはずです。
それがどの程度母乳に影響するかについてもです。
 

それをひとくくりに、影響なしと断じてしまうことは少し乱暴ではないかと感じます。
 
 

■下関式の治療例

なお、下関式がアレルギーの原因として問題にしているのは、まさに、リノール酸と動物性蛋白質の長期的な過剰摂取です。
具体的には、60年代からの食の欧風化に伴う、植物油と畜産物の消費量の激増によるものです。
 
つまり、現在母親となっている世代の女性は、ほぼ例外なく、幼少期からアレルギーの原因物質を摂りすぎている傾向にあるといえるわけです。
 
それが、母親の母乳を通って乳児のアトピーの原因になっている場合が多い、というのが、一万例以上のアトピー患者を診られた永田先生の見解です。
(下関式では、ある食品の除去を一ヶ月続けても効果が出なければ、その食品が原因ではない、と判断することになっています。)
 
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(下関式では、まず、患者さんのそれまでの食生活の傾向を明らかにします。オレンジ色の部分参照。)
 
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(永田良隆 『アレルギーの人の食事』女子栄養大学出版部(改訂版)1990/03 より。
アンダーラインは佐々木)
 

森戸先生の記事には、母乳に関する「いいかげんな情報」があふれる理由を、次のように説明しています、

母乳に関しては、日本に専門家はとても少ないのです。産婦人科医はお産が無事に済んでお母さんが健康だったら、他は自分の仕事ではないと考えがちです。小児科医は、赤ちゃんが健康だったら母乳栄養でもミルクだけしか飲んでいなくても大きな問題だとは思いませんし、一般にお母さんを診察することはありません。
 

母乳を研究する産婦人科医・小児科医はとてもマイナーな存在です。乳腺炎などの病名がつけば別ですが、「母乳の分泌が悪い」「授乳するのが痛い」くらいのことだと診察しても診療報酬が支払われませんから、処置や相談に対する対応などをすればするほど医療機関の持ち出しになり、経営者にもインセンティブがありません。

 

そうであるならば、永田良隆先生は、母乳と乳児の疾患の関係について研究された小児科医の、数少ないお一人だといえると思います。
 
 

■当サイトの方針。

ですから当サイトとしては、乳児のアトピー症状の予防や改善のためには、お母さんの食事からリノール酸と畜産物を極力控えることを提案しています。
具体的には、「家庭での食事は、魚を中心とした、ノンオイルで煮炊きした和食」です。
(森戸先生のご意見とは異なります!)

 

結果的に当サイトも、森戸先生が注意を促す「ママサイト」と似通ったもの(あっさりした和食)を、授乳期のお母さんたちに勧めています。
それについては、混同されることがないよう、根拠のはっきりした情報の発信に努めていかなければならないと、つねづね思っています。
 

というわけで、森戸先生の記事を読んだ方に、当サイトとしては次のことをお伝えしたいです。
 

・母乳を出す母親の食事内容は、乳児のアトピーに影響する可能性があると考えています。
 
・魚を中心とした、ノンオイル調理で煮炊きした和食は、アレルギーの原因となりうる成分が少ないので、授乳期に限らずお勧めします。
 
・「和食で作られた母乳はおいしく、質が高い」とか「和食で作られた母乳を飲んだ子は、目が輝き、かしこくなる」とかいうような抽象的な表現はしないようにしています。

 
 
「母乳の質が悪いと乳児の髪の毛が逆立つ」説のいち検証。をよむ
カレーは母乳に出るか、の論文読んでみた!




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